「大河や大海が、よく幾百ともしれぬ谷川の王者となりうるのは、
それが最も低い下位にあるからだ。
だからこそ百川の王となりうるのである。
人間も同様で、民の上に立とうと欲するものは、
謙虚な言葉でへり下る必要があるし、
民の先頭に立とうと欲するものは、
身を後におかなければならない。
だから、このような聖人が民の上位においても、
民はそれを重荷にはかんじないし、
民の先頭に立っていても、
民はこれを気に食わないとは思わない。
したがって天下の民は、
このような聖人を上にいただくことを楽しんで、いやがることがない。
争いの心をもたない人間であればこそ、
天下の民もこれを争うことがないのだ」
(第66章)
女性とともに老子の人生哲学をささえているものに、水がある。
水は方円の器に従うというように、相手しだいにその姿を変え、
これほど柔軟で従順なものはない。
しかも、時をあたえれば岩をも貫き通す、
恐るべき力をひめている。
「天下に水より柔軟なるものなし。
しかも堅強なる者を攻めるに、これをよく勝るものなし。
その以て(もっ)てこれを易(か)うるなきを以てなり。
弱の強に勝ち、柔の剛に勝つは、
天下知らざるはなきも、よく行うことなし」
(第78章)
「上善は水のごとし。水は万物を利して争わず。
衆人の悪(にく)むところ(低所)におる。
故に道に幾(ちか)し」
(第8章)
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